製造工程・段取り替え
治具カセット交換を移動式双腕ロボットで自動化するPoC
多品種少量の組立・検査ラインでは、製品を切り替えるたびに治具カセットの取り出し、搬送、セット、着座確認が発生します。本ケースでは、移動式双腕ロボットと二指平行グリッパーを使い、この段取り替え作業を短期PoCで検証しました。治具側に持ち上げ用スタッドを設け、U字溝を入れた専用フィンガーで受ける構造にすることで、複雑な多指ハンドを使わずに扱える方法を検討しました。


対象部門
生産技術・多品種ライン・ロボット導入部門
導入検討のきっかけ
製品切り替え時の治具カセット交換を自動化したい
案件概要
- 対象工程
- 組立・検査ラインで、品種切り替え前に行う治具カセット交換
- 対象物
- 約1〜2kgの治具カセット。上面にロボットが持ち上げやすいスタッドを設けた構成
- 動作範囲
- 供給トレーから確認エリアを経由し、治具座へセットする一連の段取り替え
- エンドエフェクタ
- 二指平行グリッパーと、U字溝を入れた専用フィンガー
- 実施期間
- 約8週間。要件整理、治具・フィンガー設計、実装、繰り返し評価までを短期PoCとして実施
- 公開範囲
- 顧客名、設備名、製品形状などは伏せ、工程の考え方が伝わる範囲で掲載
業務上の課題
段取り替えは単純なピックアンドプレースに見えますが、実際には「どの治具を選ぶか」「どこを持ち上げるか」「持ち上げた瞬間に傾かないか」「治具座の位置決めピンに干渉しないか」「正しく着座したと言えるか」をすべて満たす必要があります。既存治具を無理につかむと、滑り、傷、傾き、干渉が起きやすくなります。そのため、治具側をロボットで扱いやすい形にすることが最初の論点でした。
設計方針
PoCでは、ロボットの可搬性能を見せるために重い対象を選ぶのではなく、現場展開しやすい軽量な治具カセットに絞りました。右腕の二指平行グリッパーで持ち上げ用スタッドを受け、左腕は原則として退避させます。必要な場合だけ、治具座周辺の確認や軽い押さえに使う設計にしました。
採用候補ロボット仕様
- 最大可搬重量
- 両腕で扱う場合は最大50kg
- 片腕で扱う場合の可搬重量
- 腕を前に伸ばした状態で32kg
- 作業高さ
- 最大2.3m
- アーム
- 7自由度。治具周辺で接近姿勢や退避姿勢を取りやすい構成
- 台車
- 全方向に移動できる台車。限られた通路から作業台前へ位置合わせできる構成
- 作業範囲
- 本体前方約0.7mを両腕でカバー
- 稼働時間
- 1回の充電で約8時間稼働。短時間でのバッテリー交換にも対応
- 連続稼働
- 24時間運用を想定した構成で検討
- 位置決め・安全
- カメラによる位置決め、全方向の障害物回避、安全接触バンパーを前提に検討
- バッテリー
- CATL製バッテリーを搭載する前提で検討
進め方と期間
Week 1
作業手順の整理
作業者がどの順番で治具を取り、どこで向きを確認し、どの瞬間に正しく着座したと判断しているかを確認しました。
Week 2-3
治具とグリッパーフィンガーの見直し
既存治具を無理につかませるのではなく、持ち上げ用スタッドとU字溝付きフィンガーで荷重を受ける構造に見直しました。
Week 4-6
認識・搬送・セット動作の実装
RGBカメラで供給トレー、スタッド、治具座を検出し、接近、持ち上げ、搬送、治具座へのセットまでを短い動作単位に分けて実装しました。
Week 7-8
繰り返し評価と次フェーズ判断
持ち上げ成功率、着座誤差、作業時間、リトライ回数、作業者介入回数、安全停止を記録し、量産ラインへ進める条件を整理しました。
開発の詳細
検証環境は、供給トレー、確認エリア、治具座を分けた大型のアルミフレーム台で構成しました。主要な動作をロボット本体前方の作業範囲に収め、台車の全方向移動で作業台前へ再現性よく入れるようにしています。
治具カセットの上面には、金属製の持ち上げ用スタッドを固定しました。U字溝を入れたフィンガーがスタッドの細い部分に横から入り、閉じた後はスタッドの下側を受けるため、摩擦だけに頼らず持ち上げられます。
持ち上げ動作では、RGBカメラでスタッドの中心と角度を推定し、手首を水平に保ったまま接近します。フィンガーが入った後、低速でグリッパーを閉じ、まず30〜50mmだけ上げて傾きがないかを確認してから治具座へ運びます。
治具座に下ろす際は、浅いポケットと位置決めピンを画像で確認します。着座後すぐにグリッパーを開かず、カメラで隙間、傾き、ピンとの干渉がないことを確認してから解放します。
失敗時は、認識失敗、フィンガーの入り不足、持ち上げ時の傾き、治具座上での位置ずれ、着座不足に分けて記録しました。AIやロボット制御をまとめて評価せず、どこを直すべきかを切り分けられるようにしました。
安全面では、速度・加速度の上限、可動域制限、治具座周辺の干渉領域、台車の安全接触バンパー、作業者確認フローを前提にし、量産ラインへ展開する際のリスクアセスメント項目も整理しました。